・『神々と戦士たち』シリーズ V 『最後の戦い』
ミシェル・ペイヴァー著、中谷友紀子訳
あすなろ書房
シリーズ第5巻にして最終巻。「最後の戦い」とありますが、これまでに合戦シーンはなく、描かれるものとしては最初で最後です。
完結編にふさわしく、これまでに登場した主だったキャラが集結します。カラス族側は、大族長のコロノス、息子のファラクス、孫のテラモン、副官のイラルコス。一方、アカストス、ペリファス、ヘカビは反乱軍側。アカストスはカラス族との戦いで死んだと思われていた、かつてのミケーネ王でした。ペリファスは反乱軍の将。「名前考察コーナー」で触れていたこの二人がつながりましたよv(^^)。神話のような親子ではありませんでしたが。ときどき本物の占い師f^^;、ヘカビも状況は異なるものの、復讐心という点で神話のヘカベーとのつながりがありました。
ヒュラスとピラの動物仲間たち、すなわちライオンのハボック、ハヤブサのエコーに、イルカのスピリットも戻ってきます。予言の「背びれ、羽、毛皮」がそろえば、気分はもうバビル2世(爆)。いやまあハボック視点では、彼らは「群れの仲間」であって、しもべではないんですけどね。そして、ヒュラスの妹イシがついに登場します。カラス族に見つからずに2年も生き延びただけあって、さすがに只者ではない。というか、実は彼女こそが「短剣を振るうよそ者」だったとは! これには意表を突かれました。
詳しい経過は省きますが、この戦いでカラス族は敗れ去り、物語は大団円を迎えます。主人公のヒュラスももちろんがんばりますが、彼は常人よりは鋭い感覚とサバイバル技術を持ってはいるものの、戦闘力に優れた勇士というわけではありません。勝利はそれ以外のところで、全員がそれぞれの役割を果たした結果といえます。とくにピラの存在は大きかった。話ができすぎという指摘もありそうですが、児童向けということもあるしf^^;。ヒュラスたちはみんな過酷な運命に耐えながら、生死の狭間をくぐり抜けてきており、最後負けて死ぬではかわいそう過ぎる。物語としてはかくあるべしでしょう。
テラモンについては、前作で超えてはならない一線を踏み越えてしまっており、もう元に戻るのは無理だなとは思っていました。そもそもは、ヒュラスと身分の違いを超えた親友であり、もっとほかの選択肢はなかったのかという気はします。でもそこまで描くには、全5巻では短すぎたかな。
そういえば、「クロニクル千古の闇」シリーズは全6巻で完結したと思っていましたが、ウィキペディアの英語版を見ると、さらに続編3巻が刊行中のようです。著者ペイヴァーは「神々と戦士たち」を書き終えて、再び石器時代の世界に戻ったらしい。もしかしたら、古代ギリシア世界を書いているうちに、新しいアイデアが湧いてきたのかも。いずれにせよ、トラクとレン、ウルフとまた会える日がきそう。翻訳が出るのが待ち遠しい。