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マーラーを識る

・『マーラーを識る 神話・伝説・俗説の呪縛を解く』


前島良雄 著、アルファベータブックス
 

著者の前島良雄氏とは、以前ちょっとした縁がありました。2012年のことです。当時『クラシックジャーナル』誌で「間違いだらけのウィキペディア クラシック編」という企画があり、これに氏も参加しておられることをご本人のブログで知りました。前島氏がとくにマーラー関係の記事に不満を示されていたことについて、ウィキペディア日本語版で一連のマーラーの交響曲記事を加筆した利用者として、みっちは当該ブログにコメントしました。それがこちら
 

コメントへの直接の応答はなかったのですが、その後前島氏が『マーラー 輝かしい日々と断ち切られた未来』と本書を相次いで刊行していることからして、みっちのコメントも参考になったのかと考えています。いやまあ、そんないきさつは全く無関係かもしれませんが、いずれにせよ、今後はこれらの著作を出典にしてウィキペディアの記事に反映させることが可能になったわけで、このこと自体は喜ばしいと思います。
 

どちらを読もうか迷ったのですが、基本的に『輝かしい日々と……』がマーラーの伝記、本書がマーラー作品を主題にしたもの、という切り分けのようであり、作品解釈に関心があるみっちは本書を選んだわけです。しかし、結論からいうと、全然物足りない。一応マーラーの各交響曲(「大地の歌」も入っています)ごとにセクションが分かれていますが、曲の標題あるいは通称についての事実関係と日本での扱いの変遷を追ったものがほとんどで、裏返していえば、ただそれだけ。
 

アルマの回想録にちなんだ「マーラー伝説」やマーラーの交響曲の商業主義的タイトルについて、前島氏が以前から異を唱えていたことは知っています。例えば、金子建志『こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲』や根岸一美・渡辺裕『ブルックナー/マーラー事典』など先行する著作でも、アルマの回想には信頼を置けないことや、それに基づく従来のマーラー観や音楽解釈が一面的すぎることがわかります。前島氏の主張自体は頷けるものです。とはいえ、それらはマーラーの音楽そのものとはさして関係のない、表層的な受容もしくは誤解に過ぎません。なぜ前島氏はもっと音楽そのものに踏み込んだ解釈や研究成果を披露しないのでしょうか。音楽の内容よりもタイトルの扱いの方が本質的で重要だと考えているのでしょうか。
 

また、交響曲第5番についてはさすがに標題関連のいちゃもんはありませんが、その代りに妙なことが書かれています。5番こそ1番である?? これまでにない作曲パターンだと「1番」とはだれが決めたルールでしょうか? マーラーが5番を「1番」と呼んだことでもあるのでしょうか。でなければ、マーラーの許しなく勝手に付けたキャッチフレーズという点で、前島氏が空疎だと批判してやまない「千人の交響曲」と同じでしょう。『マーラーを識る』などという誇張が過ぎるタイトルも、「夜の歌」と変わりはありません。
 

そういうわけで、啓蒙意識ないしはマーラー受容の現状に対する不満が高じてか、ところどころブーメランになっているのも残念。過ぎたるは及ばざるが如し。これではまっとうな批判の信憑性にまで疑問が生じかねません。まあ、金子本や『ブルックナー/マーラー事典』の前に目を通しておくくらいなら、内容の薄さも許せるでしょうが、逆だと得るものがありません。

posted by みっち | 20:49 | 読書 | comments(2) | trackbacks(0) |
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コメント
なかなか手厳しいですね。私は、この本は、「マーラー 黄金の何とか」のエッセイ版、一般的に流布する定説に疑問を投げかけた本と、楽しく読みました。
特に、マーラーは、病弱でつねに死を恐れ、9番を書いた後、病に倒れ10番は未完だったというのが、客観的に誤りだったことを知れたのは、鑑賞上もよかったです。
前島氏は、音楽研究者や演奏家ではないので、楽曲分析には踏み込まなかったのだと思います。
2018/04/28 12:32 by モト
そうですね。前島氏に楽曲分析を求めた私が間違っているのかもしれません。エントリにも書いたように、もっと詳しく面白いものを読んでからだったのが、最大の間違いかも。
2018/04/28 13:21 by みっち
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