・マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団
(Venezia CDVE04234 12CD)
5番は全集CDの6枚目に1曲収まっています。1995年の録音。例によって出力レベルが小さいので、ボリウムを2割くらい上げて聴いてください。
第1楽章、おそらく全曲でもっとも違和感のある楽章でしょう。その原因は、トランペットの音色。葬送行進曲なのに、とにかく元気いっぱいで、気分良さそうというか嬉しそうなんですよね(^^;)。これさえ許せれば、非常に遅いテンポの上に、見事といっていい音響美が築かれています。だけどねー、第1の中間部のトランペットを聴いて、頭が痛くならない人がいたら、大したものです。
第2楽章は、速いテンポで突き進みます。ここからは、トランペットはさほど突出した感じはありません。弦は細身で量感は感じられませんが、金管が大音量で吹き鳴らしていても、しっかり聞こえます。表現的には、第2主題とか、展開部前半の部分なども粘らず、さっさと過ぎます。スヴェトラーノフのマーラー演奏を「大時代的」と評していた文章を目にしたことがありますが、大時代的というなら、こういう叙情的なところでは深々とあるいは悲哀を込めてやるものじゃないかと思うんですが。私はむしろ、即物的というかモダンさを感じます。まあ、大時代的とモダンがどっちが新しいか、なんていってもあまり意味はありませんけどね。オケは破綻なくよく鳴っている上、録音がいいので聴き応えがあります。とくに、楽章の終わり近くに現れる、「勝利予告」のコラールの輝かしさは、心を奪われます。
第3楽章は、今度はゆったりしたテンポをとります。ただでさえ長い楽章なので、大河的スケルツォという印象を与えます。ここだけで19分半もかかっています(^^;)。でも、合奏に透明感があって、音色変化が飽きさせません。ただし、この全集全体にいえることですけど、ホルンがやや引き気味なのと、あと弦楽にもう少し「色気」のようなものがあるとさらにいいですけど。
第4楽章、有名なアダージェットは、かなり速めで、あっさりしています。この5番では、叙情的なところで沈み込まないのが特徴になっています。音色的にも淡彩ですが、みっちはあまり思い入れたっぷりで濃厚な演奏より、こちらの方が好きです。
第5楽章。快速な終曲です。躍動感にあふれたオケが見事。マーラーの魔術的な対位法をはじめとして、実に鮮烈かつ明快に表現されています。光彩陸離という言葉を思い出します。トランペットは当然のように飛び出してくるし、一部に独特のアクセントもありますが、この音楽では気になりません。ヴァイオリンの両翼配置も効いています。
この曲に耽美性や情念を求める方にはあまり向きません。第1楽章(これが難関だったりする)を乗り越えられれば、高い満足が得られるのではないでしょうか。録音はたいへんよし。