27日、28日の土日、指揮者の小松一彦氏のもとで福岡交響楽団の指揮者練習(業界用語で「指揮練」というらしい)に参加しました。
この「指揮練」に備えて、みっちは前日の26日、仕事を休んで特訓しました。しかし、まだ譜面を1周した程度で、しかも複雑なためにところどころ読めてないところすらあり、CDを聴きながら弾いても途方に暮れる状態(ToT)。マーラーの9番を、1ヶ月かそこらで弾こうなどというのがいかに無謀なことか、ピクニック気分で山へ出かけ、巨大な氷壁に出くわして立ちすくむ感じでしょうか、すっかり落ち込んでしまいました。このままだと、みっちが恥をかくのは自業自得としても、演奏会を台無しにしそうだし、指揮者やオケの人に迷惑をかけるくらいなら、出演をあきらめた方がいいのではないかと思い悩みました。
それでまあ、とにかく一度だけでも練習に出てみて、そこでダメ出ししてもらってケリをつけようか、と覚悟を決めて参加したのですが、やっている間に考えが変わりました。指摘された箇所を何度も繰り返しているうちにパートと音楽の進行の関係が見えてくると同時に、少しずつですが身体が反応するようになってきたこと、小松先生の指導がわかりやすく、みっちのような未熟者がいることを承知の上で、技術の高低にとらわれず、より高みをめざす表現や表情付けの方向性を示して、やる気を引き起こしてくれたこと、それから、オケのメンバー、とくにチェロ・パートの仲間が、足手まといにもかかわらず歓迎してくれて、これに応えなければ、という気持ちになったことがあります。
2日間の練習で、長距離を泳いだときのような全身の疲労感が残りました。といっても、泳げるのはせいぜい300メートルくらいですがf^^;。2日目の最後に全楽章を通して演奏したときには、技術的についていけないところはまだたくさんあるものの、意識としては音楽がある程度つながるようになってきました。金曜日に落ち込んでいたときとは手応えが違っていました。
ひとことでいえば、オケは楽し、です。こんな充実感のある過ごし方はそうはありません。生オケの威力はやはり大したものですね。聴いているだけでは気がつかなかった音楽の良さも体感としてわかってきました。残された時間に課題全部をこなすのは無理としても、できるかぎり努力してみよう、と気持ちの整理がつきました。もともとお調子者なので、立ち直るのも早い(自慢)! あと一週間がんばろう、というわけで、これからまた練習です。
以下は、練習の際の小松先生の話です。「あなたたちはアマチュアだから、本番までは、この曲と仕事以外のことをしてはダメ(爆)」といわれたので、本当はブログもいけないんですが(^^;)、曲の復習ということでお許しを。いろんなところで多くの指摘があり、とても全部は書ききれませんが、曲解釈やテンポなどについて、いくつか紹介します。
小松先生はマーラーがユダヤ人であることを重視していて、この曲を「死との葛藤」というとらえ方をしています。
・第1楽章は「歪んだ春」であり、マーラーは自然の春の美しさにいつまでもとどまっていたいのだが、そこへ2分と経たないうちに「死神」(第2主題)が現れるというイメージ。マーラーの不整脈動機の紹介もありましたが、このネタ元はバーンスタインでしたっけ。これとの関係でトロンボーン、バスクラリネット、大太鼓、銅鑼は「死神」役だそうです。テンポはかなり遅め。ところどころに大きなためがあって、1度飛び出して叱られました(トホホ)。
・第2楽章では3種類のテンポの区別があり、第3楽章と合わせて、イン・テンポが強調されました。指揮者はそれほど要求しないのに、オケが走る傾向があるようです。
・第3楽章の2/2拍子と2/4拍子の違いについて、テンポ自体は変わらないが、前者の音楽は激しく、後者は軽いという指摘は、なるほどと思いました。この楽章の後半で曲調ががらっと変わる場面は、全曲でも最重要箇所で、「渇望し、ついに見えた天国。しかし音楽は再びもとの地獄のような世界に引き戻される」いうようなとらえ方です。この楽章のテンポは容赦ない速さでキツイ。
・第4楽章では、マーラーは初めてブルックナーの世界に近づいたといっておられました。ただし、この曲の終わりは、死というわけではないそうです。未完成ながら第10番があるから(そりゃそうだ)。1小節8つ振りが基本ですが、最後は4つ振りで速めになります。
こういうとらえ方は、解釈として格別目新しいものではないと思いますが、演奏する上で具体的なイメージがあるのは助かります。弾いていると、そういうことはどこかへ吹き飛んでしまうもので(自分だけか)。あと、日本人は全般的に表現意欲が薄く、とくにマーラーのような曲はどぎつく、やりすぎといわれるくらい表情をつける必要があるそうです。この点で、「ステーキ1キロを毎日食べている人種」との比較は面白かったです。これはマーラーに限らず他の演奏曲目にも通じる話で、心しようと思います。