「知ってる? 私馬に乗れるのよ」。「知っていると申すか、またがった途端にとんでもない方向に走っていったところは見ておりまする」。「うるさいわね。そんなこというからヘングステーサーさんの試験でもコースを間違ったじゃないのよ」。「拙者のせいではござらん」。「まあいいわ。これで私も騎馬武者として兄上に引けを取らない働きを見せられる。ねえねえ、それに、だれが送ってくれたのか知らないけど、このプレゼント箱に入ってたサークレット、海賊の眼帯なんかよりよっぽど似合うと思わない? もしかして、馳夫さんだったりして!」。「単に好みの問題でござろう」。「……」。
「あなたねー、従者なんだから、ちょっとはそれらしく主人のご機嫌取りしなさいよ、もう」。「どーせ拙者は馬にも乗れず、装備ももらえず、もちろんバケツも運べませぬからな。その辺で腹でもかっさばくか」。「なんだかいじけてるわね。このごろ少しお金がたまってきたから、十郎太にもご褒美買ってあげたわよ。ほら、これで機嫌直したら?」。「おお、これは鎖帷子でござるな。み、三冬様にかようなお心遣いができましょうとは!」。「なによ、それ。返してもらうわよ」。「いやいや、感激のあまりのご無礼お許しくだされ。ありがたき幸せ。誠にかたじけのうござる」。「わかればいいのよ。それで、私の代わりに攻撃を受けてちょうだい」。「……やはり、そういうことであったか。まあ、ないよりましでござる。ではさっそく装備をば」。
「御免。これより、雲霧十郎太とお呼び下されい」。「雲霧の前はなんだったのよ。でも、むさ苦しかったのが、さっぱりしたんじゃない?」。「むむ、なにか喜べない気が。ときに、トレーナー殿の話では、この姿のほかにも坊主とか女装とかもあるようでござるな」。「あなた、お坊さんや女になってみたいの?」。「拙者、なれといわれれば、なんにでもなれまするぞ」。「じゃあ、ドラゴン」。「……。無茶を申されるな」。「なーんだ、ダメじゃん。ドラゴン連れてれば、黒の乗り手でも簡単に倒せると思ったのに」。「そんな一足飛びに物事が解決できるほど世の中甘いものではござらん。人間、苦労して少しずつ力を付けるのであって、またその過程自体がなにより大……」。「私は十郎太よりもっといい重装備身につけちゃったから、いいもん。さあ、オーク退治に行くわよ!」。「むむむむ」。
(以下、中の人、みっち@ひきつづき女主人とその従者の珍道中f^^;)