最近、高齢者が絡む交通事故が毎日のように報道されています。民放の朝のニュース番組で、こんなグラフが紹介されていました。
このグラフは、政府広報オンライン「どうしたら防げるの? 高齢者の交通事故」から、「高齢者の事故は増えているの?」で掲示されています。以下本文。
「交通安全意識の浸透や自動車の安全性能の向上などにより、交通事故による死者数は年々減少傾向にある一方で、65歳以上の高齢者が占める割合は年々高くなっています。平成24年の1年間に交通事故で亡くなった方は約4,400人。そのうち、65歳以上が約半数となっており過去最悪の割合を占めています。」
交通事故死者数は減少しているが、高齢者の死者の割合は過去最悪だと。しかし、ここではなぜか高齢者の死者の数には触れていません。数は増えているのか、いないのか? そこで、内閣府が出している「平成26年交通安全白書(概要)」を見ました。
これによると、交通事故による死者数は昭和45年の16,765人が最多で、以降は減少傾向らしい。平成25年中の道路交通事故の状況(概況)としては、「平成25年中の交通事故死者数は,前年比減少率はわずかにとどまり,高齢者の死者数が平成13年以来12年ぶりに増加している。」そうです。
グラフでは、平成15年から平成25年までの11年間の経過が示されており、高齢者以外の死者数が平成21年まで急激に下がって高齢者の死者数と並び、以降はどちらもかなり近い数字で推移しています。高齢者の死者数だけ見ると、平成24年まで緩やかに下がり続けており、平成25年は39人増に転じています。あれあれ?
ちなみに、死者数の減少幅が縮小している背景として内閣府は、「高齢者人口の増加」、「シートベルト,エアバッグ等の装着率の頭打ち」、「飲酒運転による交通事故の減少幅の縮小」を挙げることができるとしています。
もうひとつ、「年齢層別交通事故死者数の推移」のグラフがありました。こちらで真相判明。
これによると、平成4年ぐらいまでは16歳から24歳までの年齢層の死者数がいちばん多かったのが、この層が顕著に減少したことに伴って、65歳以上の高齢者の死者数が突出している状況となってきていることがわかります。
つまり、高齢者の交通事故死者数はもともと多く、最近急に増えたわけでは全然ない。平成6年あたりのピークからすればむしろ減っています。死者数全体がより減っているので、占める割合としては大きくなっているけれど。高齢者の死者数が多い背景には政府も認めるとおり高齢者人口の増加があるわけで、仮に高齢者中の交通事故死者の割合を示すグラフを作ったら、分母の増に伴って死亡率はむしろ下がっているのではないでしょうか?
もちろん、ここで挙げているのは死者数だけであり、高齢者が原因となった事故そのものは増えているのかもしれませんし、この結果のみをもって高齢者対策をしないでいいとかいうつもりは毛頭ありません。しかし、もともと死者の割合だけ示して「過去最悪」とかいっているのは政府広報なわけで、こんな風にすぐにバレる統計操作で世論を煽るのはやめてもらいたい。