『ワールズ・エンド』は2013年のイギリス映画で、エドガー・ライト監督、サイモン・ペグ主演、ニック・フロスト共演による「3つの味のコルネット」三部作の3作目。今回のコルネットはミント味にチョコチップだったみたいですが、見せるのは包み紙の一部だけで、アイスを食べるシーンはありません。なお、各作品のストーリーに直接の関連はありません。
「酔っぱらいが世界を救う!」とかいう邦題を考えついた日本の供給会社には、前作同様苦言を呈したい。これも誤解されそうだから。酔っぱらいには違いないんだけど、『ハングオーバー』的なストーリーをイメージされると、なんだこれって逆効果になりませんか? それに世界を救うというのも違うんじゃないの? 以下、ズバリは書いていませんが、ちょいちょいネタバレ気味。
始まりに、主人公ゲイリーのひとり語りがありますが、ここが重要なので、これから観る人はぜひ集中してください。ティーンエージャーだったころの5人組が描かれており、このとき果たせなかった12軒のパブ巡りを、20年以上経って中年になった彼らがもう一度やろうとする。状況は以前とはいろいろと違っているにもかかわらず、展開そのものは前回をなぞるように進む、という作りになっています。つまり、前2作のように、前半の伏線を後半に回収していくスタイルの応用です。といっても、回想シーンはカット割りが早くて時間も短いので、後でもう一度見直してようやくそうだったのか、というようなところがけっこうありました。
「ワールズ・エンド」とは12軒目のパブの名前で、ハシゴの最終目標ですが、同時にもう2つの意味が重なっています。ひとつは、故郷ニュートン・ヘヴンでは一見平凡な生活風景の裏で由々しき事態が進行しており、それが12軒目でクライマックスに達します。各パブの名称は暗示的にストーリーに絡んでおり、看板のデザインもよく考えられています。もうひとつは、ゲイリーにとって文字通りの「世界の終わり」で、彼はかつてのパブ巡り以来時間が止まっていて、これを完遂して人生を終わらせようと思っているということが、見ているうちにだんだんわかってきます。それで、ゲイリーはなんとしてでも12軒回ろうとします。あとのメンバー4人はゲイリーに巻き込まれてしまっただけですが、20年ぶりに集まったというだけでもいい奴らであることは確定です。
サイモン・ペグは『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではうだつが上がらない感じの青年、『ホット・ファズ』では有能すぎる警察官、今回はアル中で過去にしか自分の居場所のない元グループリーダーと、役柄の広さに感心させられます。ゲイリーは身勝手な行動で周囲を振り回しつつも、悲哀をにじませます。三作共演のニック・フロストも素晴らしい。今回のアンディ役は「元相棒」で、ゲーリーとは疎遠になっていたのですが、ハシゴが進むに連れてその理由や葛藤が明らかになっていきます。その末のアンディの行動は感動的。このほか、リーダーになれない二番手スティーヴンをパティ・コンシダイン、気取り屋で額に痣があるため「オーメン」と呼ばれるオリヴァーをマーティン・フリーマン、社長の息子でいじめられっ子だったピーターをエディ・マーサンがそれぞれ演じていて、味わい深い。今回ぐっと役柄の重みが増しているマーティン、とくに後半は怪演というべきかf^^;。この5人に加えて、オリヴァーの妹サム役にロザムンド・パイク、恩師シェパード先生に元007のピアース・ブロスナン、バジル役にデビッド・ブラッドリーが出ていて、みんな魅力的。三作とも出演のビル・ナイは今回声だけで、吹替版だと出番なしに(爆)。
三作中では笑いの要素は一番少ないように感じますが、単純にパロディっぽかったりおバカなシーンがあまりないためで、イギリス風のユーモアやジョークはあちこちにちりばめられています。英語がよくわかるともっと笑えるでしょう。スプラッタ的要素は相変わらずですが、今回相手がブランク(「空っぽ」)なもので、なにをやっても許される感じf^^;。元ネタとしては『SF/ボディスナッチャー』あたりが思い浮かびますが、結末も含めていろいろ違います。見終わって、果たしてどっちが良かったんだろ?とか考えさせられる点もシリーズ共通。いろいろ作り込まれていて、見返したくなってしまう点では随一かも。2回目の方がよくわかり、終わりごろには切なくなります。また、例の柵もやっぱり出てきたし、三部作の完結編がパブ巡りとは、結局パブが世界の中心だったということ? ぜひともパブでビールを飲みながら話し合わねば(爆)。
ブルーレイは字幕と吹替えと両方が鑑賞でき、特典映像にも日本語字幕が付いており、フルに楽しめます。この点、1作目、2作目と扱いが異なっているのは謎ですが、今回は文句なしでした。